2008年6月17日火曜日

青い皿


アトリエのエンドーの好みで店ではよくキューバ音楽をかけています。

僕はまだ直接お会いできていないのですが、自転車でお店にお越しになるスペイン人のご婦人がキューバ音楽が好きなのならとCDを貸して下さったそうだ。
ご婦人のお祖父様がピアノを弾いていると言う。言われてみれば店の音楽がいつもよりしっとりとした大人の雰囲気だ。

店番の日に作業をしながら聞いていたら、唐突に映写機のスイッチが入った様に記憶が甦ってきました。

北アメリカ大陸縦断の旅の折り返し地点、場所はアカプルコ。

海沿いにならぶ迷路の様にいりくんだ屋台街が裸電球の明かりでそこだけ闇に浮かび上がって見えました。
布で被っただけの粗末な店の前で素焼きの皿に絵付けをしている青年の横にしゃがんで作業を眺めていました。

どこを見ても同じカラフルな柄の絵皿や置物、アマテという木の皮をのばした紙に独特な柄を描いた絵、麻や革のザックリとしたバッグや雑貨など同じ様なものばかりが並んでいる。
「買ってくれたら名前を入れてあげるよ」と彼は流暢な英語を話した。

なぜその店で立ち止まったのかというと、全面深いコバルトブルーの地に淡い青で柄を描いていて他とは違う落ち着いた色使いだったからだ。

「きれいな皿だね、何枚か買うからおまけしてくれ」
「わかったいいよ、ここにスペルを書いて、名前を入れてあげるから」
何人かの名前を書いてもらった。

最後の一枚、「名前の下にその色の名前も書いてくれないか」と頼むと

「ブルーだ書かなくてもわかるだろ」という
「違う英語じゃなくて君の国の言葉で書いてくれ」とたのむと彼は、下を向いて皿に書こうとして、そのまましばらく止まってしまった。

「どうした?」と聞くと、困ったような悲しいような顔を上げて
「字が書けないんだよ」といって無理に笑った。理解ができずに言葉がでてこなかった。
「だってそんなに英語がしゃべれるじゃないか」
「ここはアメリカ人の客が多いんだ小さい頃から働いてるから自然に話せる様になった」
「名前を書いてくれたじゃないか」
「書いたのを真似しただけだ」
「だって日本に来たらおまえの皿は絶対高く売れるぞ」
「ああ俺も日本には行ってみたいよアメリカは嫌いだけどメキシコと日本は友達だからな」
「そうだよ、日本に来たら俺に連絡しろそしたらさ・・・」
慌てて取り繕うからいらないことまでベラベラと喋るどこまでもピントが合わない。

「でもな俺はこの街からもでた事がないんだよはっはっはっ」今度は陽気に笑う。
これを聞いてトドメだった。
一緒に笑いながらもうこの場から消えたくて、代金を払って、逃げる様に屋台街の外にでた。

波の音が急に大きく聞こえた。涼しい潮風にすくわれた。たまにはビールを飲もう。
貧乏旅でほとんど酒を飲まなかったが、その夜はドスエクイスというビールにライムと塩を入れて飲んだ。
その店の代金がやたらと高く感じて値切ってやろうかと思ったが、まぁいいか・・とほろ酔いで宿に帰って濁った水のシャワーを浴びた。


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